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モニカ・ベルッチが目の前に

2012.12.20

 1986年、フェラーリ童貞を捨てた相手が328GTSだった。といってもまだルーキーの僕がリポートを担当させてもらうなんて夢のまた夢。“ひょっとしたら運転できるかも”という期待を胸に、取材助手に熱烈立候補したのだが、初日の箱根では小林彰太郎編集長にあえなく却下され撃沈、俯いて帰路につくしかなかった。

 長年の念願を果たしたのは翌日のJARI。生まれて初めて跳ね馬に跨がることができて、そりゃあもう有頂天だったことを思い出す。以後328GTSに乗りたくて、ない頭をひねり、企画の提案を繰り返しては当時輸入元だったコーンズから広報車を借り出した。昔のCGTVのタイトルバックでこの魅惑的V8フェラーリのコクピットに収まるのももちろん僕である。

 運転の面白さは、それこそ教習所に通っているときから知っていた。しかしこれほど情熱的な気分を呼び覚ましてくれることを教えてくれたのは328GTSが最初だった。未知のステージに誘ってくれたのである。今思い返すと自動車雑誌編集者としての原点ともいえる経験を積んだといえるだろう。

 そんな自分にとってかけがいのない存在が、極めて身近なところ、手を伸ばせば届くところに1台あった。そのことを知ったのは、来る12月28日に書店に並ぶCG2013年2月号の広告原稿を何気なく眺めているときのことだった。世田谷は等々力の「コレツィオーネ」のストックリストにブラックの328GTSが加わっているのを発見したのである。

 いてもたってもいられず同店に駆けつけた僕に、旧知の成瀬社長は快くキーを手渡してくれた。かくして26年の時を経て、僕は328GTSのステアリングを握る機会が得られた。

 ピニンファリーナの均整のとれたプロポーション、タイトなコクピット、クロモドラの星形ホイール、アルミのシフトゲート、フライオフのパーキングブレーキ……。328GTSには当時のフェラーリを特徴づけていたスポーツカーのエッセンスがギュッと凝縮されている。

 もちろんスタートさせれば当時の記憶がさらに色濃く甦る。前オーナーの好みでクラッチが強化型に、ダンパーがアラゴスタ製に変えられていても、328は328のままだった。ABSもパワーステリングも備わらない。しかし同時に単なるノスタルジーとして簡単に片づけられないタイムレスな魅力が感じられたこともまた事実だった。いや当時は考えられないことだが、クルマがどんどん大きく重くなる一方の今となっては、まるでライトウェイトスポーツカーを操るような軽快感さえ目立つではないか!

 さあ困ったことになった。

 欲しいぞ328GTS。

 憧れのモニカ・ベルッチが目の前で身を横たえているような状況を、我慢できるのか、オレ?

 

追伸
Facebook友達の皆さん、無責任な“買っちゃえ買っちゃえ”の大連呼、やめて。本気でグラついてるんだから。