BLOG

やわらかなボールの美しさ

2013.04.11

 今年ほど春の到来がうれしかったことはなかった。
 女性が薄着になるから? それもある。
 F1が始まるから? それも理由のひとつ。
 だが昨年の今頃はまだ知らなかったとあるスポーツの真の魅力を知ってしまい、それがことさら春を待ちわびる要因になったことは間違いない。自転車のロードレースの面白さをスポーツ専門チャンネルJ SPORTSの中継を通じて知ってしまったのだ。

 このスポーツの何がカッコイイってルールブックには記されていないある種のモラル、騎士道精神ともいえる規範が厳に存在し、勝敗が左右される場面でさえ、それが優先されることだ。
 たとえば昨年のツール・ド・フランスでは、勝負所のひとつであるステージで、不届きものが絨毯クギをばらまく事件があった。この時マイヨジョーヌ(総合リーダーが着る黄色いジャージ)を着るブラドレー・ウィギンス率いる英国のチームスカイだけはなぜか大きなダメージを免れたが、他チームの選手はもちろん、オフィシャルカーやチームカー、プレスの乗るバイクまで軒並みパンク。一時プロトン(メイン集団)は大混乱に陥った。とりわけ酷い被害を受けたのは前年ツールの覇者カデル・エヴァンスだった。ウィギンスの最大のライバルと目されたBMCのエースは自分の自転車がパンクしただけでなく、アシストから召し上げたタイアまでパンクに見舞われ、度重なるストップを強いられたのである。
 チームスカイ、そしてそのエースであるウィギンスにとって、ツール優勝を確実にするまたとないチャンスが訪れた。少なくともロードレース観戦初心者の僕の目にはそう映った。これに乗じて集団のペースを上げれば3週間に及ぶ長く厳しい勝負はもう決まり!という局面だった。
 しかしリーダー、ウィギンスはペースを上げなかった。いやむしろペースを強制的に落とさせた。
 なぜか?
 パンクに見舞われたライバルがプロトンに追いつくのを待つためだ。
そしてアシストに引っ張ってもらったエヴァンスが集団に再合流を果たしたところで、戦いを再開したのである。もし不可抗力で遅れたエヴァンスのピンチに乗じてチームスカイが勝ちに行けば、彼らは名誉を失っていただろう。仮に優勝したところで後味の悪さだけが残り、誰からも評価されなかったに違いない。
 カッコイイぞ、ウィギンス! カッコ良過ぎるぞロードレーサー達!
 世知辛い世の中にあって、大金も名声もつきまとうメジャースポーツなのに、これほど誇りと道徳心を優先させるスポーツが他にあるだろうか?

 ランス・アームストロング問題を始め、サイクル・ロードレースが今もドーピングスキャンダルに揺れていることはいうまでもない。だがそれを差し引いてもなお美しく、誇り高いスポーツだと思った。まるで1920年(大正9年)のデビス杯で、足を滑らせて転んだビル・チルデン選手に“やわらかなボール”を返した清水善造選手の逸話のようではないか!

 それはともかく5月にはジーロ・ディ・イタリアが、6月末からは100回目の記念大会となるツール・ド・フランスが放映される。先週末はパリールーベ、その前週はツール・ド・フランドルの放映を堪能した。ロードレースは知れば知るほど面白い。ジーロもツールも、ついでにいえばブエルタ・エ・エスパーニャ(スペイン1周レース)もJ SPORTSからオンエアされる。僕自身もっともっと色々なロードレース中継を見たいし、このブログを読んでくれている皆さんとも、この気宇壮大なレースの楽しさを共有したいと思っている。

 とここまで書いたところで、2004年ルマン24時間レースの際の自分の小ささを思い出してしまった。
 アウディUKとアウディ・アメリカのマシーンが立て続けに路面のオイルに足を掬われクラッシュ、自動的にアウディ・スポーツ・ジャパン・チームGohのR8の順位がジャンプアップしたことを小躍りして喜んでしまったのである。

 まだまだだな、自分。
 反省、いや猛省します。


「第100回ツール・ド・フランス記念大会」J SPORTSで全21ステージ生中継

©Yuzuru SUNADA